わたしを離さないで Never Let Me Go カズオ・イシグロ
わたしを離さないで



 ます小説タイトルがいいと思った。(表紙はカセットテープで、あんまりよくない)しかし読んでみると「ノルウェーの森」みたいに、作中で主人公が好んで聴いていた曲のタイトルである。歌手とか歌詞とか、アルバム名とかは架空のものに変えてあるが、Never Let Me Goという曲はある。しかも、村上春樹がイシグロにプレゼントしたCDの中に、その曲が入っていたという話が、どこかに載っていた。少なくとも二人は、今までに3回は会っている。

 どっちにしても、曲名からとっているのは、なんとなくガッカリだ。しかし、まともなタイトルなんて、すでに使われているのが普通だろう。アップルやマッキントッシュの名前も、すでにあった有名社名をそのまま使っているんだから。

 ネット上でタイトルを検索すると、ほとんど出てくるものが映画の感想。小説について書いたものはほんの少ししかない。映画についての記事を読んでいると、主題から外れているとは言わないまでも、なんだかピント外れなことに力を入れて論じているみたいだ。映像になってしまうと、メタファーに気づかないのだろうか。まあ、映画って、たいていそうだとは思うが、ある部分だけを強調しているのだろう。

わたしを離さないで
夜想曲集: 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語

 イギリスでのある施設のお話。ここで育ったキャシーという主人公は今「介護人」をしており、そろそろ辞めるにあたって、友人との青春の日々を回想する。本の扉や、いろいろな解説によると、物語が進むにつれ、彼女の回想が施設の驚くべき内容を明かし、衝撃的な結末に至るようなことが書かれている。

 しかし、ほんの数ページ読んだだけで、異常な事態が感じられる。そして、酷い未来が想像できる。施設の暴露は、後半におこなわれるわけではなくて、はじめっから「提供」「子どもができない」「臓器」など、隠さずに出てくる。そして、出だしを読んだショックから、自分で先を予想してしまうのだが、その予想の方が酷すぎたようで、最後まで読んだら、思いのほか落ち着いた終わり方で驚いた。

 何かとてつもない事件がクライマックスを作るのかと思ったら、淡々と日常の出来事を綴っているだけ。むしろ、特別なことなんかなにも起こっていないよと、平坦な叙述が続く。そこが怖い。主人公が「介護人」を辞めた後も気がかりだ。


 今回読んだのは、わたしを離さないで Never Let Me Go (2005年)であるが、その前に、夜想曲集:音楽と夕暮れをめぐる五つの物語 Nocturnes(2009年)を読んでいる。それが、良かったのだ。

 何が良かったかと言って、日本語が良かったのだ。訳が土屋政雄という方である。最近読んだ、「グレート・ギャツビー」や「カラマーゾフの兄弟」と全然違う。外国文学の翻訳じゃないみたいだ。もちろんほとんどの翻訳家が素晴らしい日本語の使い手であることを認めるにやぶさかではない。しかし、この人は特別だ。

 自然な日本語だと気づくこと自体が、不自然だろう、という気もする。もしかすると、もちろんカズオ・イシグロさんは素晴らしい文学者なんだろうけれど、土屋さんの翻訳に魅了されている部分も多いのかもしれない。

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[2013/06/14 19:06] | おすすめの本 | トラックバック(0) | コメント(2) | page top
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コメント
また猫ひろた
大雨で生まれたところの猫が(探していて深夜4時)

川に落ちた。

私も流れの先に飛び込んで、、キャッチしようと

手を広げていた。

しかし猫は果敢にも猫泳ぎをして自力で

私より先に岸に上がった。

すごく小さいです。

「キャッチャー・インザ・レイニーデイ」
[2013/06/20 10:45] URL | とも #lQO9N8Ig [ 編集 ]
股猫弘太ってだれ。
なかなかの武勇伝なので、村上さんにおしらせすれば、小説に書いてくれるのではないでしょうか。猫男になるかもしれんけど。

ていうか、おもしろいのでブログに書けばいいのに。「道頓堀川でつかまえて」
[2013/06/20 16:59] URL | にけ #- [ 編集 ]
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