『ドン・ジョヴァンニ』 カラヤンとオザワと吉田秀和
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 先日の村上シリーズで「小澤征爾さんと、音楽について話をする」を読んだ。その中に、若き日の小澤さんがベルリンフィルを振ったときのことが書いてあった。彼の指揮を映像で見ているとわかるように、非常に細かく奏者に合図を出す。

 それを見ていたカラヤン先生にこう注意されたそうだ。そんな入りの指示なんてうちのオケには必要ない。オケに任せておいて大丈夫だ。君は大きなところをしっかり固めるんだ。何度もそんなことを言われた。

 小澤さんの反論は、でもね、ぼくが細かく指示を出すと、オケの間に風が通るんですよ、と村上に説明する。わたしは、小澤さんの実演には四回接したが、カラヤンの言うことがもっともだと思う。最近は違うんだろうけど、以前の演奏はほんとうに風が通っているように感じた。

 10年ぐらい前、団体ツアーで(といっても6人だけ)ウィーンに行ったとき、ちょうど国立歌劇場では小澤征爾指揮『ドン・ジョヴァンニ』をやっていた。チケット入手はむずかしいだろうけど、まあ、それほど見たいとも思わなかった。相談した現地ガイドの女性も、まったくおすすめできないといった体で、チケットの確認もしてくれなかった。「オザワって、カラヤンの弟子でしょ」だからダメだと、言わんばかりだった。

 そのカラヤンの演奏、『ばらの騎士』と『ドン・ジョヴァンニ』では、録音がずいぶんと違う。バラは繊細きわまりないが、ジョヴァンニは重低音がかぶって細部が聴き取りにくい。この二つは、CDではもちろん、ザルツブルグ音楽祭のエアチェックを何度も聴いた。歌手にはかなり不満というか、他の歌手の方がいいんじゃないかという思いがあるが、カラヤンの演奏はすばらしい。実の詰まった老舗の羊羹。細かいことは言いたくない。


ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮  ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 ★★★
ベルリン・ドイツ・オペラ合唱団  1985年1月 ベルリン
 
ドン・ジョヴァンニ=======サミュエル・レイミー
ドンナ・エルヴィーラ======アグネス・バルツァ★
ドンナ・アンナ=========アンナ・トモワ・シントウ★★
ドン・オッターヴィオ======イェスタ・ウィンベルイ
レポレロ============フェルッチョ・フルラネット★
ツェルリーナ==========キャスリーン・バトル★☆
マゼット============アレクサンダー・マルタ
騎士長=============パータ・ブルチュラーツェ★



新・音楽展望 1984-1990 吉田秀和 より
 カラヤンはここ数年、ザルツブルクの音楽祭で、《バラの騎士》をふり続けてきたが、今度そのCDがでた。この演奏は映画の時とは違う。それは第一幕の終り、それから終幕の大詰めとに集約的に出ている。遅い速度の上で、延々として繰り広げられる音楽は、文字道理、心のそこからつき上げてくる悲しみ、あるいは心のそこからにじみ出てくる愁いに彩らている。こういう悲しみは聴くものの心を動かさずにはおかない。それに、ここには、どんな人間も逃れられない「時間」というものの力-私たちを生みだし、育て、やがて老いと衰えに導いていく力の存在を体験する時、私たちみんなが感じる、その味わいそのものが流れているのである。カラヤンはここで、このひとの最近の状態まで来てはじめて可能になった演奏をしている。そうして私は、これを希代の名演と呼ぶのをためらわない。 (1984.11)

 もうだめだと思った一昨年、あの《バラの騎士》で「永遠の青年」といった上っ調子から立ち直り、見事に円熟した老巨匠ぶりを見せたのに驚嘆したのだったが、今年末の《ドン・ジョヴァンニ》に至っては年齢云々など突き抜けた。序曲の最初の二短調主和音の全奏以下、騎士長殺しからアンナとオッタヴィオの復讐の誓いまできいても、音楽は一切を押し流しつつ突進、時には火を吹く勢いだ。モーツァルトのこの曲がどんなデーモンを蔵する音楽か、それをこんなすごい力で実証した演奏を誰が今の彼に期待したろう。この盤は今年最大の収穫である。これをきくとカラヤンが近代合理主義演奏の代表という見方を考え直さなければならなくなる。旋律美至上と痛切な演劇性を結びつけ全人間的ドラマとするのに成功したのがこの曲のこの人である。 (1986.12)
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[2013/07/22 16:34] | ドン・ジョヴァンニ | トラックバック(0) | コメント(0) | page top
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