人生の時間はいつも退屈
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他の人を見ていると不思議なのは、一般的な思いこみだろうけど、絵を描くことに、ある程度枚数を重ねて慣れてくれば、楽に絵が描けるようになると思っているらしいことです。ものをこのように組み合わせておき、こっちから光を当て、正確にデッサンをして、この部分はこう描けばいい、こういう手順で塗ればいい、というノウハウの積み重ねをすれば絵がうまくなる。先生みたい?に簡単に絵が描けるようになる。そのやり方を教えてほしい。ブロックを積んで塀を作る。実際の制作はそんなものですが、そんなやり方があると思っているらしいのです。

 経験を積めば積むほど、先が読めず、途中でやめたり、分岐点で迷ったりします。まったく完成に至る手順が予想できません。次にどうしたらいいか、毎日頭をかかえています。(ウソです。お腹を抱えてます)やけっぱちになり、試行錯誤しているうちに、突然変異があり、違った表情が見えて、「これだ!、これがあれば絵になりますよ!」と草枕みたいなことを言い出すのです。描く前に思ったとおり、予定通りサクサクと完成したら、たいした成果は出ないでしょう。ああ、こんな事うまく言えるわけがない。

 最近この人の本を立て続けに読んでいます。小説家みたいですが、小説は読んでません。(そういえば村上春樹も、私はエッセイばっかり読んでいて、小説を読むようになったのは最近のことだ)この人も猫をいっぱい飼っているみたいです。やっぱ、猫好きか、まいった、まいった。



『途方に暮れて、人生論 保坂和志』よりちょっとだけ。

 何か課題を設定して自分を縛ることは自分を楽にすることだ。ということに気がついてほしい。何も現実的な課題を設定せずに今の状態にどっぷり浸かって、漠然としたことばかりを考える。この不安さ、不安定さは、小説に限らず、創作や表現にかかわることをしたい人には絶対に、何年間かは経験しておかなければならない状態だと思う。なにしろ、何かを創ったり表現したりするかぎり、不安や不安定から逃れることはできないのだから。

 これは幸せ・不幸せを定義するときに私がいつも感じる齟齬なのだが、自分が生きている時代をただ楽しいと思っていられる人は、その時代に適合するサイズの内面しか持っていない。時代が求めるもの以上の遠いところを見ているからこそ、その人は生きにくいと感じることができる。

 人が生きている主観的な時間は、楽しいことは短くあっという間に過ぎてしまい、苦しいことは長くいつまでも終わらない。私には長く感じられる時間の方こそが人生の本質というか、〈人生の素顔〉のようなものではないかと思えるのだ。人生で用意されている時間はいつも長く退屈で、それを見ないために人は楽しいことを探し続ける。旅行に行っても、行った先でぼんやり景色を眺めているならともかく、あちこち見て回らなければならないとしたら、「労働じゃないか」と思う。私は小説家で、こういう仕事をしているとみんな私が他の人と違う何かをしているように思いたがるのだが、私は猫のようにただ家の中にいるだけだ。猫のように、時間があまってしまった子どものように、〈人生の素顔〉と向き合うこと、それは楽しいわけではないけれど、「それが人生なんだ」「生きるとはそういうことなんだ」と思うこと、それが私にはかけがえがないし、尽きない興味の対象でもある。

 自分が何者でもなくても、不安でも不安定でも、とにかく、若いというだけでいいんだとわたしは思う。子猫や子犬を飼ったことのある人ならわかるだろうが、子猫や子犬は見るもの触れるものすべてが好奇心の対象で、目を覚ましている限り遊んでいる。若いということはそういう、世界が生き生きしていることで、それは地位や名誉や財産には換えられない。『素晴らしき仲間たち』のように昔の貧乏話をして盛り上がるのも、「成功者としてうんぬんかんぬん…」という気持ちなのではなくて、若かった頃をしゃべりあう友だちが目の前にいることで、その記憶がいっそうリアリティを持って生き生きとした時間が蘇ってきて、どろんと倦怠しつつある現在の自分に活が入る、ということではないのか。


書きあぐねている人のための小説入門 (中公文庫)

人生を感じる時間 (草思社文庫)

小説の自由

猫の散歩道

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[2013/10/10 19:05] | おすすめの本 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top
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