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オペラ サモトラケのニケ
なぜだか、ただいま『フィガロの結婚』特集と……『ドン・ジョヴァンニ』が割り込んできました。
『トリスタンとイゾルデ』 バレンボイム ベルリン国立歌劇場来日公演
 海外の歌劇場の来日公演体験では、もっとも数多く接したのはサヴァリッシュ指揮のバイエルン国立歌劇場だが、もっとも感銘を受けたのは今回で3回目の体験となるベルリン国立歌劇場だ。以前の2回は、まだ東ドイツの時で、オトマール・スイトナー指揮の「フィデリオ」と「マイスタージンガー」だ。この時に聴いた、スパス・ヴェンコフとライナー・ゴールドベルクがもっとも素晴らしいテノールだった。スイトナーという指揮者は、熱狂的なファンがいるほど人気者ではないし、サヴァリッシュ同様、どこからみてもごく普通の演奏しかしないのであるが、魔法にかかったように感動に包まれた。

 そして今回の「トリスタンとイゾルデ」もたいへん素晴らしい体験となった。これは指揮者やソリストが素晴らしいという以上に、ベルリン国立歌劇場の総合力のたまものだろう。第1幕の出だしこそ、音量大きめで凡庸、不安を感じたものの、その後尻上がりによくなり、第3幕のゆったり精妙な演奏は、これこそ現代最高のワーグナー指揮者の実力を感じさせるものだった。


ダニエル・バレンボイム 指揮 ベルリン国立歌劇場管弦楽団・合唱団     
ハリー・クプファー演出  NHKホール 2007.10.17公演

イゾルデ========ヴァルトラウト・マイアー
トリスタン=======クリスティアン・フランツ
マルケ王========ルネ・パーペ
ブランゲーネ======ミシェル・デ・ヤング
クルヴェナール=====ロマン・トレケル
メロート========ライナー・ゴールドベルク


 舞台上には、3幕通しで、中央にデンと巨大なブロンズ像が置いてある。サモトラケのニケよろしく、背中に大きな翼が生えている天使とか女神とか言われているみたいだが、私には「イカロスの翼」に見えた。「太陽」ではなく「愛」に近づきすぎて地上に落下、地面にたたきつけられ化石となったイカロス。右羽根は広がって地面についており、左羽根は高く上を指すようにとんがっている。その上に伸びた左羽根の影が、トカゲのしっぽのように床面に落ちている。全体で見ると悪魔のシルエットのようにも見える。

20071018191635.jpg


 ブランゲーネのミシェル・デ・ヤングは今年の小澤「タンホイザー」で丸裸を見せてくれて印象的なヴェーヌスでしたが、今回、他の歌手が凄すぎるせいか特に印象に残りません。クルヴェナールのロマン・トレケルも映像ではお馴染みでしたが、今回初めて聞きました。悪いところはないのですが、声量不足で、やはり印象薄です。

 
 メロートがなんとライナー・ゴールドベルク。私の聴いた最も優れたヘンデン・テノールです。この配役を見たとき、これはトリスタン役に何かあったときの代役になるように、影のダブルキャストしてもってきたのかとも思ったのですが、お年がなんと68歳。ということは私が聴いたときも、すでにけっこう衰えていたのかもしれません。緊張感のある立派な声でした。歌っているだけで凄いですが、メロートでは歌うところ少なすぎです。前回ウイーンの時はハインツ・ツェドニクが歌ってました。なんてもったいない。

 マルケ王のルネ・パーペは、現代もっともすぐれたワーグナー歌いだとは思うし、何の不満もないのだが、以前見た時のテオ・アダムの方が断然心に響いている。残念。どうもこの第2幕終盤の場面は、第3幕にそなえてトリスタンを休ませるために、マルケ王の歌を引き延ばしているような気がしてならない。

主役トリスタンのクリスティアン・フランツは、どこぞでジークフリートを歌っているのを見たような気もするが、いちばん馴染みのない歌手だ。第2幕、愛の二重唱ではマイアーとはりあって見事な歌唱をみせるが、その他では声を完全に出していないようでイゾルデに圧倒されている。おまけに見た目がいけない。どう見てもトリスタンではない。

 イゾルデは一番期待のヴァルトラウト・マイアーです。バレンボイムの『トリスタンとイゾルデ』は1993年にバイロイトでのビデオ収録、1994年にベルリンP.O.とレコーディングしています。前者のイゾルデはヨハンナ・マイアー、後者がヴァルトラウト・マイアーを起用しています。私の初めてのトリスタン体験である1986年のウイーン国立歌劇場公演のイゾルデがヨハンナ・マイアー。今回2007年がヴァルトラウト・マイアー。ということでバレンボイムの両イゾルデと私の聴いたイゾルデは一緒なのですが、そりゃあもう断然今回のヴァルトラウトの方が優れています。

 ヴァルトラウト・マイアーは、エディタ・グルヴベローヴァ、フィオレンツァ・コッソット、ギネス・ジョーンズとならんで私の聴いたもっとも優れたソプラノです。その声量は、これだけ揃っている名歌手を圧倒して、最後の「愛の死」まで衰えません。いや、ますます力強くなって荘厳なフィナーレを迎えました。最後に「イカロスの化石」の中に「イゾルデ」が同化して消えていくのが印象的でした。 

 2回観劇(感激)した人の話によると、十分予想通りだが、どうやら神奈川県民ホールの方が音質が良いらしい。横浜は遠いから、ホテルでも取って見に行きたいものだ。

 今年は、とても悲しいことがあった。

悲しみを浄化してくれるような『トリスタンとイゾルデ』これで十分。
ドレスデン国立歌劇場は気にしないことにしよう。

テーマ:クラシック - ジャンル:音楽

この記事に対するコメント

『トリスタン』、素晴らしい上演でしたよね。オデュッセウスの観た8日神奈川公演は最後の余韻が素晴らしかったですが、17日は最後にちょっと残念な出来事があったようですね。
【2007/10/18 22:33】 URL | オデュッセウス #- [ 編集]


こんにちは。
同じ日の観劇でしたね。バレンボイムのすごさと、マイヤーの素晴らしさが引き立った公演。もう参りました!
そして私も、ゴールドベルク、懐かしくてかなり注目してました。
まだまだ立派な声でしたね。あのマイスタージンガーが懐かしいです。
悲しい出来事はつらいものです。
次回のドレスデンは、オケがさらに楽しみであります。
【2007/10/18 23:45】 URL | yokochan #- [ 編集]


オデュッセウスさん。たしかに、幕切れはみなさんがお書きになっているように、変な拍手がわき起こりましたが、私は感動が大きかったので、それほど気になりませんでした。3階席に限ってのことでしょうが、前の席の人が体を前に倒すか、ちょっと背が高いと舞台がひどく見にくくなります。それで第1幕前奏曲の途中で、私の隣の人が前の人をポンポンとたたき、前の人は意味が分からず後ろをにらみ付け、しばしの緊張があったのですが、再度後ろの人が小声で耳打ちして解決しました。他の席でもこのような雰囲気があって、第1幕の方が気分が乗らなかったのです。
【2007/10/19 00:50】 URL | にけ #- [ 編集]


yokochanさま。ドレスデンは涙をのんで買いませんでした。それで、これでもう満足と言い聞かせているのです。
昔は外来オペラは、金額からいっても年に一度のビッグイベントでした。今年はもう、小澤「タンホイザー」、チューリッヒ、ベルリンと聴いたから、もう充分でしょ、と思ってやめておきました。
マイヤーには、他の演目でまた来てほしいですね。ほんとうに思い出に残る、最高の公演でした。来月15日にナタリーです。
【2007/10/19 08:16】 URL | にけ #- [ 編集]


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ベルリン国立歌劇場日本公演/トリスタンとイゾルデその2

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