細雪
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 『細雪』は、谷崎潤一郎のめずらしく長めの小説。文庫本3冊で、これぐらいがいちばん読みやすい分量だ。途中、災害や不幸を入れて、むりして長くしている気配もする。

 ドナルド・キーンさんがどこかで語っていたところによると、もうちょっと長生きしていれば、川端康成より先に谷崎潤一郎がノーベル文学賞をもらった可能性が大きい。ということは、川端の『雪国』にあたるのは、まさにこの『細雪』だろう。アルフレッド・ノーベルは寒いところで生まれたからな。

大阪船場で古い暖簾を誇る蒔岡家の四人姉妹、「鶴子」「幸子」「雪子」「妙子」の繰り広げる物語。三女雪子の見合いが軸となり物語が展開する。しかし本人はほとんど意志を現さないので、ふつうのヒロインのように魅力をまき散らすことはない。残念なことである。

 以前読んだ、谷崎潤一郎の源氏物語訳がひどく難解な日本語で、読み通せなかったものだから、小説もきっとこのようなものかと思って敬遠していたのだ。長編小説しか読みたくないのであるが、谷崎には『細雪』しかないようだ。心配していたのに、ひどく読みやすい小説だった。最初は悠々としていたが、だんだん時代の閉塞感が出てくる。

  『源氏物語』でも、働かないで至れり尽くせり世話をしてもらっている女性がたくさん出てきて、ちょっとしたもめ事で「死にたい。出家したい」と言っているが、ここでも似たような雰囲気を感じる。ただ源氏の方は、天皇に近い大貴族の女性であるのに対して、こっちは大阪の商人の娘である。なのにひどく家柄にこだわっている。

 ここに出てくる女性たちも、親の遺産で生きていて、働かないで悠々自適に生活している。特に何かをしているわけではない。なにもしないでお見合いの勧めが来るのを待っているだけ。自ら結婚などする気もなく、今まで、些細なことで相手を嫌い断っている。

 だから平安時代の物語よりも、むしろ時代錯誤的な不快感がある。簡単に言うと、働きもしないで、不平不満ばかりの生活態度だ。真面目に働いている人たちを、見下してさえいる。現代的な末娘が、手に職をつけようとするのを、皆で反対する。

 時代が変わってみれば、大して違いのない家の格式とか、本家の意向だとか、何とも意味のないことにこだわって、婚期を逃したり、娘を勘当したりしている。世間体を気にして、家族が不和になり苦しんでいる。時代に洗脳されているとしか思えない。

 その点、現代の人々の生活だって、似たようなものだ。みんな公的なニュースや、ホームドラマなどに洗脳されているとしか思えない。そうでなければ、重要な問題をみんなで忘れようとしているのか。こんな時代なのに、自分自身のことでも、思ったように自由に生きることができていないのを、ふがいなく思っている。
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テーマ:本の紹介 - ジャンル:学問・文化・芸術

[2016/01/25 16:14] | 図書館 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top
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