ギリシア人の物語 まだ1巻

 全15巻に及ぶ『ローマ人の物語』の、冒頭部分にちょっとだけ触れられていたギリシア部分を、3巻にまとめようという本の、まだ一冊目です。厚くて文字も小さい本ですが、おもしろくて二日とかからずに読んでしまいました。

 『ローマ人』後に『ローマ帝国後の地中海世界』2巻、『十字軍物語』4巻がありました。それ以前に中世イタリア、特にヴェネチアについての著作もたくさんあります。それなのにギリシアについては書かないのか、という疑問はありました。

 ギリシアといっても、当然ですが、アテネとテミストクレスが中心です。その次がスパルタ。2万のペルシャ軍に対した、レオニダス率いる300人のスパルタ重装歩兵の玉砕などの、なんとなく知っている歴史的エピソード満載。テミストクレスがサラミスの海戦でギリシアのポリスをまとめ導き、勝利する。強大なペルシャに対抗するためとはいえ、それまで領土争いの戦争を繰り広げていた、極めて仲の悪いギリシアのポリスが、理性的に一致団結するところは感動的だ。

 なにしろギリシアの最盛期ペリクレス以前を一冊で取り上げているので、『ローマ人』の詳細な記述に比べれば、総集編みたいに話の展開が早い。もっと長くして欲しいぐらいです。

 半分は、テミストクレスのお話です。ペリクレス以前の大政治家。ローマでいうと、ユリウス・カエサル以前の、ルキウス・コルネリウス・スッラにあたるような偉人です。しかし、恐ろしいことに、このペルシャ戦役の英雄が、二人とも不幸な仕打ちを受けることになる。アテネのテミストクレスは国を追われペルシャに逃れる。スパルタのパウサニアスは、スパルタの国是に反するとして殺された。目立った才能を酷く嫌う民主制なのだ。

 20万人以上の、ギリシアに10倍する世界最大動員兵力を持ってきて、2世代にわたって大ペルシャ帝国が敗れる。なんだペルシャでも負けるんだと分かったとたん、各地で反乱が頻発し、ペルシャは弱体化する。アメリカ合衆国帝国をもってしても、キューバもベトナムも、北朝鮮も思うように出来ないのだ。


 このような歴史書では、司馬遼太郎であろうと、トルストイであろうと、物語の合間に作者が顔を出して、教訓的意見を述べます。『ローマ人の物語』では、そういうところがたくさんありましたが、こんどはほとんどありません。読者に気づかれないよう、物語にとけ込ませているのかもしれません。以下はその珍しい、教訓っぽいところ。

 正論を言うのなら、初めからそうしていれば良いものを、と思ってしまうが、人間世界はそう単純には出来ていない。人間とは、なにもスパルタ人に限らなくても、既成事実のない段階で正論を聴かされても、必ずどこか文句をつける箇所を見つけるものである。それが、既成事実を前にして正論を説かれると、本心からは納得しなくても、まあそれでよしとしようという、対応が穏やかに変わる場合が多い。

 人間とは、偉大なことでもやれる一方で、どうしようもない愚かなこともやってしまう生き物なのである。このやっかいな生き物である人間を、理性に目覚めさせようとして生まれたのが「哲学」だ。反対に、人間の賢さも愚かさもひっくるめて、そのすべてを書いていくのが「歴史」である。

 『ローマ人』の時も、途中の段階で、作者の命が、物語の最後まで持つのかという心配がされましたが、今回は3巻。問題ないでしょう。いや、もっと長く続けてほしいものだ。





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