「やってもできない」成功哲学
やってもできない

☆ウクライナの子ども

『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法 橘 玲』より

●子どもの成長に子育ては関係ない
 標準的な発達心理学では、知能や性格のちがいのはぼ五〇パーセントは遺伝によるもので、残りの五〇パーセントが環境の作用だと考えられている。この「環撃とは、いうまでもなく親の育て方のはずだ。ところがこの〝子育て神話〟も、いまや科学的な検証を迫られている。子育ては、子どもの成長になんの関係もないかもしれないのだ。

 ザ・ピーナッツからマナカナまで、一卵性双生児はよく似ているけれどお互いのコピーではなく、性格も趣味噂好もちがう独立した個人だ。その相関係数を計ると、だいたい0.5程度になる(半分くらいしか似ていない)。

 ところがここに、とても不思議なことがある。どのような統計調査でも、同居の一卵性双生児の相関係数は、養子に出されて別々に育った一卵性双生児の相関係数とはとんど変わらないのだ。彼らはまったく同じ遺伝子を持っているのだから、性格のちがいは環境しかない。ところが同じ親に育てられても、別々の家庭で育っても、その差を見分けることはできない。なぜこんなことになるのだろう。

 在野の心理学研究者ジュディス・リッチ・ハリスは、誰もが身近に知っていてもこれまで気づかなかった、コロンブスの卵のような疑問を思いついた。
 東欧やアラブやアジアからたくさんの移民が幼い子どもを連れてアメリカにやってくる。親は英語をほとんど話さず、子どもには母国語で話しかけ、家庭の宗教的・文化的雰囲気は彼らが祖先から受け継いだままだ。それでも子どもたちは、一年もたたないうちに流暢なアメリカ英語をしゃべるようになり、やがて母国語を忘れ、思春期になる頃には完壁なアメリカ人に成長する。

 同じような現象は、聾者の両親を持つ子どもだともっとはっきりする。親が聴覚障害者でも、九割の子どもはなんの問題もなく生まれてくる。聾者の子どもは親からはいっさい言葉を教えられないけれど、ほかの子どもたちと同じように言葉を覚え、そのちがいはまったくわからない。

 こうしたさまざまな事例から、ハリスはきわめて独創的で、かつ説得力のある仮説を提唱した。すなわち、子どもの成長に親は必要ないのだ。
 これについては後でもういちど触れるけれど、ハリスは、子どもの性格の半分は遺伝によって、残りの半分は家庭とは無関係な子ども同士の社会的な関係によってつくられると考えた。

 集団への同化と集団内での分化によって形成された性格は、思春期までには安定し、それ以降は生涯変わらない。ぼくたちは長い進化の歴史のなかで、いったん獲得した性格を死ぬまで持ちつづけるよう最適化されている。

 信じる信じないは別として、ここまでの遺伝学や心理学の 「発見」 をまとめてみよう。
①知能の大半は遺伝であり、努力してもたいして変わらない。
②性格の半分は環境の影響を受けるが、親の子育てとは無関係で、いったん身についた格は変わらない。
もしこれがほんとうだとしたら、努力することにいったいなんの意味があるのだろう。


●「やってもできない」成功哲学
 自己啓発は、ひとがみな無限の能力を持っていて、知能や性格が教育(学習と訓練) によって開発できることを前提にしている。それに対して行動遺伝学は、遺伝的な影響を教育で変えることはできないという大量のデータを積み上げている。いったいどちらを信じればいいのだろう。

 勝間の主張は、香山の批判を受けて自ら奮いた本の題名に端的に表われている。「やればできる。」
だが行動遺伝学は、次のようにいう。「やってもできない。」

 もうちょっと正確にいうと、適性に欠けた能力ほ学習や訓練では向上しない。「やればできる」ことはあるかもしれないけれど、「やってもできない」ことのはうがずっと多いのだ。
 こちらが正しければ、努力に意味ほない。やってもできないのに努力することほ、たんなる時間の無駄ではなく、ほとんどの場合は有害だ。

 人格改造のさまざまなセミナーやプログラムが宣伝されている。でも、これらはたいてい役には立たない。なぜなら、「わたし」は変えられないから。でも、奇跡が起きないからといって絶望することほない。ありのままの「わたし」でも成功を手にする方法(哲学)がある。

 残酷な世界を生き延びるための成功哲学は、たった二行に要約できる。
①伽藍を捨ててバザールに向かえ。
②恐竜の尻尾のなかに頭を探せ。
 なんのことかわからない? 



  


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[2010/11/19 20:16] | おすすめの本 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top
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